不思議な本です。
何がって、おおぎやなぎちかさんの「しゅるしゅるぱん」(福音館書店)です。
先日、おおぎやなぎちかさんと福音館書店さんが、児童文芸新人賞を「しゅるしゅるぱん」で受賞。表紙絵を描いた縁で、その式典に出席してきました。
1人自営イラストレーターは、フリーランスというと聞こえがいいけれど、何の事は無い、失業状態と日々隣り合わせです。名目、個人事業主ですから、失業保険なんてありません。
「イラスト(あるいは、絵)お願いします」と発注側が思わないと、売上ゼロ。
いわゆる「あの作家に」と思い出してもらえるかどうかに暮らしの全てはかかっています。
「この本のさし絵は東北の空気感を描ける作家に頼もう」
福音館編集部の方は、そう考えて、作家を探した、と、おっしゃっていました。
しゅるしゅるぱんの不思議な縁はそこが始まりでした。
ウン万人といる絵描きの中から候補に選んでいただき、打ち合わせで原稿を手渡されまず驚いたのは、本の主人公が私の息子と同じ名前だった、ということです。
その後、著者のおおぎやなぎさんと会った時、おおぎやなぎさんの家族と私が繋がっていたことやあれやこれや、整理が大変なほど偶然がつぎつぎと現れたのでした。
一昨日の授賞式のあと、おおぎやなぎさんと身内のみなさん、出版社の方の小さな身内二時会にお誘いいただき、実に楽しい時間を過ごさせてもらいました。それはとても心地よい空間でした。本に様々な形で関わった人たちが今一緒にテーブルを囲んでいる、カンファタブルな不思議さ。
そのときふと感じたのは、「しゅるしゅるぱん」を書かせた「何か」でした。「何か」とは神の領域のものなのかもしれません。いわゆる普遍的なもの。それが、文学者であるおおぎやなぎちかさんという媒介を通して、本という形で宙の彼方からこの次元に現れたのかもな、と思いました。
しゅるしゅるぱんの物語は、読む人それぞれに、いろんなことを考えさせると思います。
考えは生き物です。心地よい考えは、新しい道を開き橋をかけ、美しい未来へ繋いでくれる。
著者おおぎやなぎさんの児童文芸新人賞受賞は、そのことだけでも果てし無く素晴らしいことですが、それ以上に「賞」は、たくさんの読者のもとへ本が渡る、大きな橋なのだと信じて疑いません。
そんな橋を作る仕事に少しでも関わることができて、光栄でした。
おおぎやなぎさんと福音館書店さんへ、心から感謝もうしあげます。ありがとうございました。